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この度、初の書作展を開催する運びとなりました。一昨年他界した中島司有に師事して三十余年、この間に師から学んだことは、書の真髄にかかわることから、書学の追求へと幅広く、あらゆる面で現在の私の骨格をなすものです。師・中島司有は私に手本などは一切書かず、常々こう言い続けていました。Γ自分が古典を学びぬいて自分の書を作りなさぃ。技術だけではなく素材にも深い理解が必要です。そのためには本をたくさん読みなさい。時間を大切にし常に勉強しなさい」
その教えに従ぃ、私は二十代初めから甲骨文字・金文・篆書・隷書・楷書・行書を自分の学書の基本にしてきました。その間、現代書も書き続けてきましたが、特にここ十年ほどは、日本語と欧文が混在する詩文の作品制作に関心を持ってきました。欧文を縦書きにすると不思議なほど日本語とうまく調和します。私が特に意識して縦書きブロック体にこだわってぃるのは、中国古代の甲骨文字・金文・篆書の筆法が、そこに鮮やかに生きていることがわかったからです。古典を学び続けて得た書線で、これからも現代の詩文を生き生きと表現したいと思っています。
今回初の書作展を開くにあたり、初期の作品や、現代書の作品の他に、宮内庁文書専門員としての立場で昭和天皇の御製を八首書かせていただきました。これは、浜名湖花博会場「昭和天皇自然館」での展示と同様のものです。
私の書の心、書芸術の世界と、新しい挑戦を、ぜひご高覧ください。
司朗 佐伯良一 拝
最近、欧文の交じった詩歌が多く見られるようになってきました。現代に生きる私にとつて、漢字かな交じり文の作品を発表してぃく場合、これからは欧文や世界の文字を加えた作品の発表が重要ではないかと思っています。
私は二十代初めから三十代前半まで、甲骨文字・金文・篆書・隷書について、文字学から文字の筆法まで、幅広く徹底的に勉学・臨書しました。そして、並行して漢字かな交じり文の勉学も続けました。中国の古代文字、殷代の甲骨文字は直線的に彫られた文字です。彫られた文字なので、起筆は進行方向より逆にくいこませ、終筆も同様に鋭くくいこませています。骨や亀甲にト辞を彫り込んで発生した中国の文字は、その後、書かれる材質や書体は変化しても、その筆法は受け継がれています。
私は以下のことから欧文文字と金文・篆書の同化という特徴が挙げられるのではないかと思っています。
まず、金文・篆書の文字形態を見ると、アルファベットの形態に相通ずるものがあること。全て逆入にくいこむように始まり、終筆も紙面の奥に突き刺すようなタッチで書く―これは私がアルファベットを書く場合特に気をつけている部分であり、また筆記体を用いない理由でもあります。
次に私が注目したのは、欧文を甲骨文字・金文・篆書の筆法で表現することにより、漢字・かな・欧文の調和がとれるのではないかということです。例えば篆書の一文字「昔」という文字を分解してみると、アルファベットのブロック体「A」「M」「W」「N」「O」「P」などを学ぶことができます。また、「A」の字形だけを考えても、その他の古代文字の中から無数のバリエーションが生まれてくるのではないでしょうか。そう考えると、詩文に合った欧文の字形が自ずと見つかるのではないかと思えてきます。たとえば、漢字系の漢字かな交じり文を発表する場合、かなを直線的に、欧文はアルファベットのブロック体を古代文字の直線的な筆法で表現し、漢字と融合させればいわけです。
また、作品の形態についで言えぱ一般的に欧文は横書きという概念がありますが、私は発想の転換をはかり、漢字やかなの作品に合わせて、欧文を縦書きにしました。縦書きにすると、文字の大小をつけたり、間のとり方に変化をつけられるなどの利点があるからです。ただし、欧文を書く場合、特に注意することは、日本語は単体であるのに対して、欧文はアルファベットの集合したものが単語である点です。したがって単語や文節の間を大切にし、文章が読みやすくわかりやすいように配慮する必要が出てくるのです。
このように私の現代書は、中国の漢字、日本のかな、欧米のアルファベットが渾然-体となって同化し、古典に根ざした深い書線で、調和のとれた美を表現することを目指しています。
今後も文字と言葉を大切にして作品発表を続けることが私の使命です。そして、文字離れする若者たちが、もっと書を身近にとらえ、現代の詩歌を新しい感覚で表現してほしいと願っています。その時に、私の書が一つの指針となればいいと思います。
宮内庁文書専門員を務めていることから、御製を拝書することが多いのですが、拝書する姿勢として持ち続けているのは、自分に厳しく、自分というものをなくして書かなければならないということです。御製は昭和聖徳記念財団謹製の昭和天皇御製カレンダー」を平成十三年度から揮毫させていただき、また現在開催されている「浜名湖花博」のパビリオンの一つ「昭和天皇自然館」にも主催者の要請で、揮毫させていただいています。
御製を揮毫するときには、筆者を感じさせない工夫が大切です。観る人達は素直に御製を拝読して、昭和天皇のお心を仰げばよいのです。筆者は正しく読みやすく、心をこめて御製を拝書することにより、御製を可視的なものにしなければなりません。御製と鑑賞者との間に、筆者が割り込む姿勢を見せることは、絶対にしてはならないと考えます。
漢字もかなも楷書体と、これに調和する単体で書き、原則として連綿はしない。謹書の姿勢を貫くためです。また一般の人にもわかりやすいように、一行目は上の句を二行目は下の句を配し、御製を正しく理解していただくことにしています。そして落款も入れないし、印も押しません。それが御製を拝書する作法だと、私は思っています。